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Miho Uchida

フジコ・ヘミング スペシャル・コンサート ~ヴァスコ・ヴァッシレフと共に~


写真左:©中嶌英雄 (Hideo Nakajima), コンサート・ドアーズ提供

写真右:©Svetloslav Karadjov, Dizzart Studio


Fuzjko Hemming Special Concert with Vasko Vassilev in Japan

 「私にはドイツのような杓子定規な社会よりフランスのように自由な場所が合っているの」と煙草をくゆらせながら語るフジコ・ヘミング氏。物言いがはっきりしていてその潔さが気持ちよい反面、その率直さとは対照的な円やかで優しさを帯びた話し声がなんとも魅力的な人物だ。大きな髪飾りのせいか、ヴィクトリア朝風なフリルのついたブラウスのせいか、それとも波乱万丈な人生を乗り越えてきたからか、オペラ『椿姫』の主人公を思い起こさせるようなドラマティックなオーラを醸し出す。デビューしてから70年以上経つ今でも人々を惹き続けてやまないヘミング氏が11月の秋日和の爽やかな日々が続く東京でコンサートを催したので行ってきた。同氏の長年の友人であるロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)のコンサートマスターである天才ヴァスコ・ヴァッシレフ氏とのコラボ・コンサートだ。


まずはヴァッシレフ氏が単独で颯爽と登場し、世界でも最も難しいヴァイオリン・ソロ曲といわれているバッハ作曲の「シャコンヌ」(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第二番ニ短調より)を弾いた。バッハが35歳で亡くなった妻を想って書いたと言われているこの曲はバッハの魂の叫びが聞こえてくるような激しく切ない短調の曲で、奏者の高レベルな技術を必要とするが、ヴァッシレフ氏の演奏からは技巧だけでなく、切りつけられるような赤裸々な感情の痛みが伝わり、シーンと静まっていた会場の観客は心高鳴り、「ブラボー」の声が飛びかった。続いてラフマニノフの切ない調べ「ヴォカリーズ」をヴァイオリンソロで弾いた後、ヴァイオリニストを悩ませる難曲と言われているパガニーニの「カプリース第24番イ短調」を演奏した。極端に早いスケールやアルペッジオ、弓のバウンドなど難易度の高い奏法を軽々と披露してくれたが、中でもヴァッシレフ氏の左手のピッツィカートは感動もので、今でも頭の中で鳴り響いている。彼のソロ演奏が終わった後は、ゆったりとヘミング氏が登場し、2人で息の合ったベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ第5番『春』ヘ長調」の第1楽章と第2楽章を奏でた。


第2部はヘミング氏によるソロのピアノコンサートでシューベルトの「即興曲第3番」でスタートした。右手と左手の音量のバランスが絶妙で、優しいけれどもそこはかとなく潜む情熱が感じ取れる演奏はヘミング氏自身を表現しているようだった。「主催者の方にソロの曲をもっと入れてくださいと頼まれたので弾きます」など、率直に述べているだけなのか笑いを取っているのかよくわからないところに思わず微笑んでしまう。「私は現代音楽は好き嫌い以前に全く理解できないの。好きな作曲家と言われても困るけれど強いて言えば、ショパン、リスト、シューマンなどのロマン派の音楽そしてドビュッシーやラヴェルのような印象派の音楽が好きで、今日弾く曲はみんな好き」と教えてくれた。確かにドビュッシーの「月の光」とショパンの「エオリアンハープ」、リストの「ハンガリー狂詩曲第二番」やシューマンの「トロイメライ」など彼女の選んだ全7曲は大好きで知り尽くしているのだろう。どれも技巧を見せびらかすわけでもなく、淡々と彼女の思いを込めて弾いているので聞いている方も自然体で心穏やかに聞けた。そして締めは、ヘミング氏の十八番であるリストの「ラ・カンパネラ」だった。高い鐘の音も彼女が弾くとイタリアのすがすがしい青空の元でまったりとしている午後、遠くから鐘の音がゆったり聞こえてくるような温かい感じのする絵を頭に描くことができて心が安らぐ。


ヘミング氏の演奏は彼女の描く絵と同様、人の心を癒して幸せにする力がある。そして彼女独特の奥の深い優しい魅力は彼女と接して初めてわかる。今でもなお世界中を駆け巡る彼女のコンサートに世界のどこかで直接触れることをお勧めする。




フジコ・ヘミング氏の最新のコンサート情報は公式サイト参照 

ヴァスコ・ヴァッシレフ 最新コンサート情報は公式サイト参照 https://www.vaskovassilev.com

コンサート・ドアーズ最新のイベント情報は公式サイト参照 https://concertdoors.com/#concert

2021年12月7日付 J News UK にて掲載

https://www.j-news-uk.com/


















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