New production of Rigoletto at the Royal Opera House (ROH)

コロナ規制がなくなった2021/22シーズンのROHの皮切りは『リゴレット』。オリヴァー・ミアーズがROHのオペラ監督として初めて演出し、指揮は音楽監督のアントニオ・パッパーノ、コンサート・マスターをヴァスコ・ヴァッシレフが務めるというROHの総力を結集した待望のオペラだった。
オリヴァーは全編にわたって絵画を舞台に取り入れていた。幕開けにカラヴァッジオの『聖マタイの殉教』を思わせるような活人画を用いたり、マントヴァ公爵を絵画コレクターとして描き、パレスをティツィアーノの『ウルビーノのヴィーナス』や『エウロペの略奪』で飾り立てていた。これらの絵には意味があるようだ。聖マタイがヒルタコス王に殺される『聖マタイの殉教』は、マントヴァ公爵がモンテローネ伯爵を抹殺するのを暗示しているかのようで、『ウルビーノのヴィーナス』は官能を楽しむマントヴァ公爵の生活を、そして『エウロペの略奪』では公爵が学生を装ってジルダに近づく様子を仄めかしていると感じた。ヴェルディはモンテローネ伯爵の呪いを表すモチーフをオペラのあちこちにちりばめることで、この呪いがオペラの中核であることを示唆しているが、オリヴァーは、意味ある絵を配置することで、コロナによって失っていた絵画を直接鑑賞する大切さを私達に訴えかけているようだった。
この日は歌手も大スターが勢揃いだった。マントヴァ公爵を演じたのはアルメニア出身テノール、リパリト・アヴェティシャン。彼の無理なく自然に伸びる歌声は心に直に響いた。タイトルロールにはスペインの大御所バリトン、カルロス・アルヴァレス。彼のリゴレットは贅沢で堕落した人々にいびられて、世間を疎む道化師の寂しさが滲み出ていた。しかし観客から絶賛の拍手を浴びたのはソプラノの大スター、リセット・オロペサだった。「慕わしきお名前(Caro nome)」における細い銀の糸を思わせるようなコロラトゥーラは音を正確に捉えているだけでなく、細やかな感情が込められていて、いつまでも頭の中に鳴り響いた。更に感嘆したのはジルダとリゴレットが歌った第二幕のデュエット「いやご老体ちがいますぞ(No, Vecchio, t’inganni)」だ。バランスの取れた熱情や声、そして息の合い方は絶妙でこんなに感動したデュエットを聴いたのは久しぶりだった。ROHの父親のような存在であるパッパーノに率いられたオーケストラの演奏には心を震わされ、ライブに比肩するものはなしと感じ入った。
2022年2月にはキャストを変えてもう一度上演され、次回ROH来日の際にはこの作品を持って行く、というのが巷の噂。来日を待つことなしに、来年2月に渡英して鑑賞してはいかが?


2021年11月25日発行のACT4、104号「ロンドン便り」にて掲載
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